■一夜限りの夢
昨年の10月に老舗の飲食店が店を閉じました。
私の住む地方都市では、またおいしい店が一つなくなりました。
私の住む街は、すでに死に体です。
私が子供の頃は、多くの名店がありました。
しかし、小さな店は後継者がいないので、 次々となくなっていきます。
昔、繁華街に、おいしい焼肉屋がありました。
夫婦二人でやっているお店で、この店の肉の味付けは独特でした。
子供の頃の体験は絶対化しますから、言い切ることはできませんが、私はこの店の味付けを超えるものに出会ったことがありません。
ちなみに、この焼肉屋の近くにはもう一店、焼肉の名店がありました。この店の味付けもまた独特で、「こっちの店の方がいい」と言う人もたくさんいました。
たかが生肉を漬け込んでおくタレの好みでしかないのですが、 ○○派VS△△派の熱いバトルがあったわけです(味付けのことだけ書いていますが、それぞれの店が提供する肉についても、ああでもない、こうでもない・・と人々は話の種にしていたものです)。
・・・と、こういう景色はどこの地方でも普通にあったことだと思います。
ところで、私が子供の頃に通った焼肉屋です。
大学に進学し、地元に帰らず就職した私は、しばらくこの焼肉屋に 行くことがなかったのですが、10年ぶりに行く機会がやってきました。
ところが、店に入ると、店は不良のたまり場と化していました。
老夫婦は引退し、娘らしき女性が店を継いだようなのですが、 店はガラガラで彼女の男友達がたむろしていたのです。
久しぶりの焼肉を食べながら、 「あー、終わったな~」と思った数ヶ月後、店は火事で閉店。
その後は、駐車場になってしまいました。
地方で旨いものが食べられなくなったのは残念ですが、 “修行”という言葉が存在しなくなってしまった現在、 修行を終えた若き名人が新しい店を出し、地方の飲食界が活性化していくなんてこともあり得ませんから、人口の少ない地方は旨いものが食べられない場所と化したのだと思います。
こういう話は、そもそもが地方の必然だったんですね。
残念でなりませんが、小さなお店は一代限り。
そして、大手チェーン店の店舗展開や人口減の状況下では、 地方においては趣味のような飲食店しかやるのは不可能ということでしょう(ちなみに、私が現在ハマっている地元のラーメン屋は、完全に趣味です。月・火曜休みでお昼しかやっていない。材料費なんて計算していないようなので、しっかりした味を楽しめます)。
この小さなお店の運命は、中小企業も同様です。
ただ違うのは、小さなお店の店主は 「この店はオレの代で終わりだー」と言っているのに対して、 中小企業の多くの経営者は、 「後継者、後継者!」と叫んでいることです。
でも、本気で自分の会社を未来永劫続けていくつもりなのでしょうか?
高度成長期という特殊期間は、 中小企業に多くの勘違いを熟成しました。
大企業のやり方を、いろいろ参考にしようとする態度なんかは 典型ですね。
多かれ少なかれ、誰にでもそういう気持ちはあると思います。
冷静に考えてみれば、長年続く老舗というのは、 条件が限られています。
銀座のような立地とか、特殊な得意先を持つとか・・・・・・・。
ところが、高度成長期を通過する中で、そうした特殊条件を持たない中小企業でも二代目、三代目が生まれてしまったのが、 勘違いのはじまりです。
今では、中小企業経営者の多くが、漠然と後継のことを考えるようになっています。
会社を継いだ二代目、三代目の多くは、 ビジネスモデルのピークを過ぎた経営を押し付けられ、 大変な苦労をしているケースがほとんどです。
継承そのものが破綻している・・というのが多くの現実です。
しかし、そういう事実は外からあまり見ることはできません(銀行などは、よく知っていますけどね・・)。
一言で言い切れば、継承できるのは、利権だけです。
銀座などの立地、特殊な得意先、限定的特殊技術・・・・・・ も利権です。
小さなお店は、味一発勝負。利権はありません。
だから、続かなくて当然です。
毎日食べに行くわけでもないのに、閉店の知らせを聞いて残念がるのは、大衆の勝手でしかありません。
利権のないものは続かないのです。
私には、利権がありません。
別に利権を手に入れようとも思いませんでしたが、 縁もありませんでした。
ですから、br「この店はオレの代で終わりだー」と考えて 今日までやってきました。
ある時期が来たら、閉じ方を考えなくてはいけません。
しかし、閉じるのは大変です。
ですから、後継を望む中小企業経営者は、閉じることを考えるのが 面倒くさいから、後継を考えている節もあります。
・・・というか、何もかも漠然としか考えていないのだと思います。
時は経過します。
広げた風呂敷は畳まなくてはなりません。
そして、その覚悟を早めに持つことが大事だと思います。
別に、今すぐにどうの・・ではないのですが、継承をフィクションであると断じて、現実的な視点で周辺を眺めるべきなのです。
現実的な目で周辺を見て、利権があることに気づいたら、 継承を考えるのはもちろんですが、利権が見つからなかったら、 アイデンティティを小さなお店のオヤジにするべきです。
そして、言ってみましょう。
「この店はオレの代で終わりだー」
今、私は後ろ向きなことを書いているように思われているかも しれません。
しかし、違います。
現実的なことを書いているのです。
経営とは、実は、一夜限りの夢なのだと思います。
そして、だからこそ面白いのです。
まだ、先の話ですが「あーあ、楽しかった」と言って終えたい ですね。
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