■固定された原則
戦争というものは、状況の不明を常とするので、習慣と先入主で凝り固まったものを唯一の基礎とし、これを支えとした極めてあいまいかつ不完全な科学である。他の科学はすべて、確立した諸原理の上に樹立されている。
一方戦争の科学だけが不毛のままになっている。
また、この問題について、著名な将帥たちの著述からは適切ないかなる根拠も発見できない。
それゆえ、それらの著書は全く無価値なだけでなく、表現が過度に複雑かつ難解なため理解に非常に努力と天分を要することを我々は悟ったのである。
そこに論ぜられているすべての論旨は、完全に思いつきと想像の所産にすぎないから、歴史的判断の根拠となるものはない。
(マレシャル・ド・サックス)
今回は、以前にもご紹介したマレシャル・ド・サックスの有名な言葉から。
今では、よほどの軍事オタクじゃないと知らない存在になってしまったマレシャル・ド・サックスは、18世紀前半、つまりナポレオン以前に活躍した軍人で、父はポーランド王。オーストリア継承戦争、ジョージ王戦争などで活躍しフランスの最高司令官だ。
そして、ナポレオンは、彼の遺産の承継者だと言える。
彼の言葉の「戦争」の部分を「ビジネス」に読み替えると面白い。彼の18世紀後半の言葉は、そのまま21世紀の私たちの時代にあてはまるのだ。
もちろん、私たちは1950年代に、ドラッカーを得た。
彼は、その他の著名大学教授よりも、「ビジネスというものは、状況の不明を常とするので」ということをわかっている人だった。
そして、ある程度の論理的な飛躍に目をつぶりながら主張を展開した。
「表現が過度に複雑かつ難解なため理解に非常に努力と天分を要する」ことがないように努めたからだと思う。
しかし、その論理的飛躍のせいか、ドラッカーが論文などに引用される機会は、極めて少ない。世間の実務家の注目度からは考えられないくらいに学会からは無視された存在だ。
ビジネスの世界におけるスターたちもたくさんの本を書いてきた。
その中には、名著と呼ぶにふさわしいものはいくつかある。
しかし、その大半は、「適切ないかなる根拠も発見できない」駄本だ。
21世紀には、本を書いた本人が、舞台を後にすることさえ当たり前になってしまった。
「表現が過度に複雑かつ難解なため理解に非常に努力と天分を要する」学者の本の間隙を縫って、“一時の成功者”の本やノウハウ本が巷にあふれることになったが、それはむしろ事態を悪い方向へと導くこととなった。
では、「ビジネスの科学展開」とは、どういうものだろうか?
実は、そのほとんどのことは、ドラッカーが数冊の本で言い尽くしている。
しかし、多くの人は、『もしドラ』やドラッカーの解説本は読むものの、原書を読もうとしない。
そこで、その事態に腹を立てた私は、2年前から『ドラッカー解説CD』を作るという我が身を省みない行動を起こしてしまった(汗)。
ついでに、ドラッカーを読み解くための無料セミナーまでやってしまった。
ここで、以前紹介したマレシャル・ド・サックスの言葉を再掲しよう。
「他のあらゆる科学は固定された原則の上に確立されているが、戦争という科学だけはそういう固定された原則を欠いている」
ドラッカーの語る多くのことは、“固定された原則”である。
解説しないと意味がわからないと思うが、
・責任
・貢献
・真摯
・非支配
・強み ・・・・etc
は、“固定された原則”である。
再び、サックスの言葉
「これと異なる意見を持つ者は何も知らない愚者あるいは軍人として未熟な者であると言える」
“固定された原則”を知らない者は、愚者である。
21世紀私たちは、18世紀の軍人とは違う。
“固定された原則”の多くが与えられている。
そして、その利用が今まで以上に効果を発揮する時が来ている。
私の高校時代からの友人が、商売で喘いでいる。
彼は、私に相談することなく、あらゆるノウハウに手を出し、無茶な広告費も大量に使った後に、私に相談のメールを送ってきた。
私は、彼が引っかかった“困っている者からお金を搾り取る仕組み”について説明し、彼がその落とし穴に落ちたことを指摘した。
そして、それは、彼の心の弱さからきていると書いた。
その弱さを、“不安”と言う。
いつも書いているが、“不安”の裏返しの行動はうまくいくことはない(最近のドイツ日本は典型)。
だから、私は彼に言った。
「基本からやり直してみよ」
この言葉の意味がわかれば、彼は立ち直るはずだ。
なぜならば、世の中には、それほど本気で生きている者などいないからだ。
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