2016年4月19日 第556号

目 次
  1. TAROの独り言
  2. どうして、こんなに予言的?
    ・・・前に進む。前に進まない
  3. まーけ塾レポート
    ・・・6. ついに出ましたマインドフルネスの問題
  4. Q&A
    ・・・時間管理のコツとは
  5. しょせん人の言葉  しかし、気になる言葉
    ・・・『セリム・エセル
  6. 砂漠の中から本を探す
    ・・・『ぼくらの仮説が世界をつくる』
  7. 構造で映画を見る。時々、いいかげんに映画を見る。
    ・・・『女が眠る時』
  8. TAROの迷い言
2. どうして、こんなに予言的?

■ 前に進む。前に進まない

バークリー音楽大学が出版している
『A Modern Method For Guitar』の巻頭には、次の言葉がある。

演奏テクニックは、ギターを弾く上でのフィジカル(身体的)な部分なので、急いで学習しても身につくものではありません。

題材はすべて、均等なテンポを保ち、
十分にゆっくり練習しましょう。
どれもとばしたり、軽視してはいけません。

また、一つひとつのレッスンを先へ進む前に
完璧なものにしようと焦らないようにしましょう。

演奏テクニックは、徐々に蓄積されるものであり、
復習する度に、楽に演奏ができるようになっていくのが
わかってきます。
スピードと正確さは、ゆっくり着実な練習とコンスタントな復習によってこそ得られるものです。

(ウィリアム・リーヴィット)

練習は量ではないし、スピードでもない。
慌ててつまらないものを蓄積すれば、
つまらないものにしかならない。

いかに良質な蓄積をするか。
そして、質が良ければ、量は問われない。

野球の一流選手の話の中にも、コーチが量稽古を強いるので、
それに逆らって合理的な練習を勝手にやった・・という話が出てくることがあるが、量信仰は、プロの間でさえ根強いものがある。

フィジカルは、反応が遅い。
すぐには変わらないし、急激に変えてしまうと恒常性が働く。
急激なダイエットやライザップがダメなのは、ここにある。

「急がない」「前に進まない」は重要な価値だ。
ゆっくり積み上げる。これしか方法がないのだから、
「あえて、進まない」という思想が大事になる。

“年輪”という言葉は、この事実に対する表現だ。


・・・こうしたことは、今までも手替え品替え書いてきたので、
最早いいと思う。

ここでは、ウィリアム・リーヴィットの
「完璧なものにしようと焦らないようにしましょう」
という言葉を扱いたい。
「前に進まない」価値を絶賛しながら矛盾しているが、
「前に進む」価値についてのお話である。

私は、昔からこの『A Modern Method For Guitar』の巻頭の言葉が好きで、何度も何度も読みなおしている人間だが、何かを上達したいと思っている人間に、こんなに的を得た矛盾した言葉を書いたものは、世の中にはそれほどない。

それがあまりないことは、とても意外だ。
しかし、小説のような形式を取ったもの以外では、
なかなか見ることはない。
それだけ、世の中にある文章は、「真実を100%伝えないで良い」という考え方を前提にしたものになっているのだと思う。

では、ウィリアム・リーヴィットの
「完璧なものにしようと焦らないようにしましょう」
という言葉に戻ろう。

私たちが、完璧を幻想と知り、完璧を求める人間には何か問題があることを知ったのは、福島第一原発の事故の時だったように思う。

私のような人間には、揚げ足取りにしか聞こえないのだが、
政策などに完璧を求める人は切実な思いから求めているのだと思う。
それは仕方のない事だろう。

しかし、その頑なな完璧主義は、
悲劇しか生まないことになっている。
とりあえず、前に進むことはとても重要だ。

なぜか?

前に進むと景色が変わるからだ。
景色は一定ではない。
見える景色が変わることで、気づきが起き、
問題が解決することは多い。
だから、ある程度できたら、前に進むことが絶対条件である。
完璧など求めている場合ではないのだ。

では、「前に進まない」と「前に進む」ことの背景の違いは何か?

これは、どちらの言葉にも“あえて”という文字を付け加えてみると
わかりやすい。

「あえて、前に進まない」
「あえて、前に進む」

そうなのだ。
結局、どっちも一緒なのだ。
「前に進む」も「前に進もない」も変わらない。
その背景にある心の弱さが問題なのだ。
そもそも、まったく悩みなく前にも進むことも、
とどまることもできない。

必要なのは、瞬間瞬間に、「進む」か「進まない」かを考え、
“あえて”を選ぶセンスだ。

目次に戻る
このページを閉じる