2016年9月20日 第578号

目 次
  1. TAROの独り言
  2. どうして、こんなに予言的?
    ・・・花
  3. まーけ塾レポート
    ・・・5. 雑誌機能のお話
  4. Q&A
    ・・・サラリーマンから経営者になって…
  5. しょせん人の言葉  しかし、気になる言葉
    ・・・『アレクサンドル・ピネ』
  6. 砂漠の中から本を探す
    ・・・『実家の処分で困らないために、今すぐ知っておきたいこと』
  7. 構造で映画を見る。時々、いいかげんに映画を見る。
    ・・・『パコ・デ・ルシア 灼熱のギタリスト』
  8. TAROの迷い言
2. どうして、こんなに予言的?

美しい「花」がある。

「花」の美しさといふ様なものはない

(小林秀雄)

これはすごい言葉だと思う。
しかし、あまりピンとこないかもしれない。
そこで、次のように言い換えてみよう。

素晴らしい「人」がいる。

「人」の素晴らしさといふ様なものはない

さらに、次のように換えてみよう。

美しい「彼女」がいる。

「彼女」の美しさといふ様なものはない

ここで、小林秀雄が「花」を使ったことにすごみを感じる。

普遍的な美しさなんてないのだ。
それぞれが、それぞれに美しい。

それは、「人」や「彼女」にして考えるとわかりやすいのだが、
そこをあえて「花」という美の象徴の一つを使ってしまうところが
すごい。問題の本質の立ち上がり方が違う。

しかし、ここは小林秀雄論をやる場ではないので話を進めよう。
蛇足的に、次のように換えてみる。

成功した「人」がいる。

「人の成功」といふ様なものはない

この当たり前は、“慰め的”に取り上げられることはあるが、
あまり本質的に取り上げられることは少ない。
「人それぞれ」という言葉にくくってしまうのは簡単だが、
そういうことではないと思う。

このことを考えていると、一人の人物が浮かび上がる。
ハインリヒ7世である。

中世のヨーロッパ社会をルネサンスの時代に導いた一人、
フリードリヒ2世の息子であり、ドイツ王だった人物だ。
彼は、父親から厳しく扱われたことで反発。
反フリードリヒ勢力に接近したため、
父親から王位を剥奪され終身禁固を言い渡される。
そして、別の城に護送される途中で谷底に身を投げて自殺をした。

彼について、塩野七生は次のように書いている。

歴史上の著名な人の全員が、マキャベリの言う、リーダーに必要な資質である、力量と運と時代の要求に応える才能の
すべてに恵まれているわけではない。
歴史は、高い地位に就いていなければ平穏に暮らせたのに、とか、別の時代に生まれていたならば力を発揮できたのに、と思う人であふれている。

フリードリヒ2世の嫡出子だったハインリヒ7世は、
その運命が決まっていたように思う。
そして、塩野七生の指摘するように、歴史上、そういう人物は多い。
彼らは、本当に、不幸な人々だ。

現代社会では、そうした歴史上の人物が受け入れざるを得なかった
構造を、自ら引き受けてしまう人であふれている。

それは、「花」の美しさ、つまり、「人の成功」・・という幻想が、ちまたで大手を振っていることで起きているのだろう。

私は、ハリウッド映画の多くを嫌う人間だ。
その理由は、美しさの押し売りにある。
ステレオタイプの価値観を押し付けてくるので、嫌なのだ。

もちろん、そうではないハリウッド映画があるのは承知しているし、好きな監督もいる。
しかし、その多くは、私のような者には縁のないものである。

縁のないものは多い。
アメリカ大統領をはじめとして、世の中の多くは縁がない。
六次の隔たり・・などと言わなくても、多くの有名人と出会うことは難しいことではない。
友人、知人の知り合いには、結構、有名人がいるから、
その気になれば会えるだろう。

しかし、そんなことを思う者はあまりいない。
縁がないからだ。

先日、娘と酒を飲んだ。
大学で、ハイデガーを学んでいるらしく、
ハイデガー解説で盛り上がった。
「宿題をやるときは、お父さんに聞いて書く・・」
とズルいことを言っていた。

その彼女と、「花」の美しさ・・の話になった。
彼女は言う。
「でも、目標とか基準は必要だよね」

私は言った。
「バカを言うでない。おまえは宿題にお父さんの力を使おうとしただろ。そんな奴が目標ばかり偉そうに持ったって意味はない」

そして、世の中は、そんな奴ばかりである・・と続けた。

美しい「花」がある。

「花」の美しさといふ様なものはない

この言葉を心に刻んでおく、そして行動する。
私は、それだけでいいと思う。

美しい「花」は必ずあるのだから。

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