■ある自覚
(1)
新潟の事務所で仕事に没頭していると、突然、秘書に呼ばれた。
来客だと言う。
突然の来客なんてまずないので、 首を伸ばして玄関を見ると知らない人・・。
「誰?」と聞くと、私の本を読んで気に入って、 わざわざ他の本を買いに事務所に来てくれたらしい。
おそらく、玄関から私の姿が見えたので、 「名刺交換させてください」ということになったのだろう。
そこで、私は外向きの顔をして玄関へ挨拶をしに行った。
一通り、外向きのお話を終えると、その人は言った。
「写真を撮らせてください」
私は、少しびっくりして思った。
「まだ、こういう人が私の周りにも現れるんだぁ~。まー、たまにはあって当然かもな~」
ただし、写真はお断りした。
(2)
この間、「商談の前に、相談に乗って欲しい」という依頼を受けて、急遽、個別の相談を受けたことがある。
相談の内容は、ある取引先企業から資本取引の申し出を受けていて、それを受け入れるべきかどうか・・・というお話。
相手は、それなりに有名な企業で、外から資金も入っていて資本力もあるということだった。
一通り、状況の説明を聞いた後、私は質問した。
「相手の社長は、時間を守る人ですか?」
相談相手は、その質問の内容をおかしな質問と思うこともなく 答えた。
「時間を守らない人です」
ピンポーン!
大当たりだった。
もちろん、申し出は受けないこととした。
(3)
知人がある有名な経営者に、「私の勉強会に来なさい」と言われた。
彼は行きたくなかったが、これからの取引のこともあり、行ってみることとした。
勉強会に行くと、どこかで聞いたことがあるような話がとうとうと 語られていた。
そして、その月並みな話を参加者が一生懸命聞いていたという。
知人は帰ってきてから私に聞いた。
「あれはなんですか?」
私は答えた。
「おしっこをかけられた人の集まりだよ」
彼に、勉強会に行くように勧めたのは私である。
私は、取引を望むならば、おしっこをかけられないとはじまらないので、勉強会参加を勧めた。
犬が縄張りをおしっこで囲い込むように、この経営者は勉強会など、彼が主催する活動のいくつかで囲い込む。
この経営者は、その地域ではかなり有名な人だ。彼の縄張り拡張行動がとてもうまくいっているということだろう。
「取引のために、電信柱になるのはOKである。ただし、注意は必要だよ」
私は彼にそう言った。
(4)
自宅の玄関のチャイムが鳴った。
応対に出てみると、スーツのおじさん。
「○○さんとは懇意にしておりまして・・」
と友達の名前を言った。
それから、私を相手にいろいろ話し出した。
「この人、何が言いたいんだろう?」と思ったけど、 そのうちわかった。
選挙に出るらしいのだ。
一通り話すとおじさんは去っていった。
そして、二度と来ることはなかった。
(5)
時間がなかったので吉野家に入った。
目の前にいるアルバイトらしき店員が「少々お待ちください」と言ったまま来ないので、奥にいた司令塔らしき店員に、目で合図をした。
司令塔は、すぐにその店員に指示。
しかし、彼は別の仕事を優先した。
その様子を見て、私は店を出た。
この店に居続けても、あと2回は同じような場面に遭遇しそうに 思えた。
まー、このアルバイトにとって、 私一人の売上なんてどうでもいい話だ。
お互いがお互いの時間を大切にしたお話であり、お互いが時間を大切にしたことで寄り合わないことになったお話である。
(6)
私が「一緒にビデオを見よう」と言ってビデオをスタートさせたと 同時に、妻は話をはじめた。
話の内容は、リビングルームの掃除をしたけど、とても大変だった・・・というお話だった。
私は、ビデオを停止して、話を聞いた(おしっこをかけてもらった)。
夫婦関係も時間支配の戦いだ。
旦那が何かを一生懸命やっていると、 妻が「今日、こんなことがあったのよー」と話し出す場面は 日本中の普通の景色だ。
人の時間を1秒であっても拝借することは、 本来はあってはならない。
だから、そのことに自覚的な人とだけ付き合う(除く妻)。
それは、とても有効な人生のコントロール方法だ。
唯一無二かもしれない。
しかし、世界に敵は多い。
おそらく、この「敵は多い」という自覚こそが有効なのだろう。
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