2018年5月15日第668号

目 次
  1. TAROの独り言
  2. どうして、こんなに予言的?
    ・・・稲盛方程式をけなす
  3. まーけ塾レポート
    ・・・4. 英語中間報告
  4. Q&A
    ・・・今年のフジロック
  5. しょせん人の言葉  しかし、気になる言葉
    ・・・『萩本 欽一』
  6. 砂漠の中から本を探す
    ・・・『それから―江戸アケミ詩集』
  7. 構造で映画を見る。時々、いいかげんに映画を見る。
    ・・・『ラッカは静かに虐殺されている』
  8. TAROの迷い言
2. どうして、こんなに予言的?

■稲盛方程式をけなす

どれだけ、投資を受けたいという起業家や経営者がその事業にコミットメントしているのか。はやっているからとか、お金もうけできそうだからとかいう人が、やはり、いるのです。
そこで、なぜ、この事業をやろうと思ったのかや起業したいのかをシリコンバレーでは、その人の生い立ちから聞くのが常です。
本当にやりたいのか、起業がかっこいいからやってるだけなのかがすぐ分かります。コミットメント、情熱の強さみたいなものは、事業の成否を分ける最も重要なポイントです。

(伊佐山元【ベンチャー・キャピタル『WiL』創業者】)

真説・企業論』で、中野剛志さんが『日経ビジネスオンライン』から引用しているインタビュー記事の一部である。

中野さんは、この記事の引用後、ロイターの調査結果を紹介し、
伊佐山さんの言っていることとは“違った答え”を有力としている。

その違った答えを一言で言うと、ベンチャー・キャピタルが出資するIT起業家は、「平均的国民よりも裕福で学力が高く、ビジネスのコネをもった人物が多い」となる。

そして、起業家のコミットメントや情熱・・・なんて話は、
そのまま受け取ってはいけない・・としている。

おそらく、それはその通りだろう。
まずは、分母に、「平均的国民よりも裕福で学力が高く、ビジネスのコネをもった人物」があって、選択の段階で「起業家のコミットメントや情熱・・・」が考慮されるのだ(中野さんも、そう書いている)。
ダメな奴が、おかしなコミットメントや情熱をもっても、
悲劇がさらに深刻になるに決まっている。

この本は、ずいぶん“当たり前”なことに紙面を費やしてしまっているのだけど、現在のベンチャー問題は、こんなことを書いておかなければいけないほどに、ズレてしまっているのだろう。あらためて、時代の雰囲気みたいなものの怖さを見たような気がする。

ところで、この手のお話は、とっくの昔に稲盛和夫さんが方程式に
している。
あの有名な方程式である。

人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力

この方程式、本やネットでの引用数が半端ではない。
私のようなひねくれ者は、死んでも引用したくない方程式だ。

稲盛さんは、『AERA』のインタビューで次のように答えている。

大事なのは、その人が持つ、人生や仕事に対する「考え方」と
「熱意」であり、「能力」は3番目と考えています。


こんな順番にするから、「企業家のコミットメントや情熱・・・」
なんて話が、優先されてしまうのだ。
そして、方程式を引用する者たちも、その稲盛さんの気持ちを踏襲
して、考え方の大切さを語る。高校生くらいまでを相手にするなら、通用するけどね・・・。

つまり、今の日本の大人は、それだけ低能化しているのだ(と強く思う)。
こんな方程式を作って説明しなきゃいけないくらいに、ダメなのだ。
(1)稲盛さんがどんな素晴らしい経営者であろうが、
(2)こんな方程式はダメである。
(3)大人を相手に何を言っているのかと思う。

そして、一言で終わる。
「3つとも大切に決まっているじゃないか!」

さらに、
「それぞれのシナジー効果は想像以上だろうな」

私たちの「やる気」の多くは「能力」を基盤としている。
できるから、その気になる・・・という当たり前のお話だ。

ちなみに、「能力」のない者の「情熱」は、本来「情熱」とは
呼ばない。
あれは、「逃避」である。「情熱」は、最高の「逃避」の場所でも
ある。

「能力」という表現も曖昧だ。
「能力」とは、「できる」ことを言う。
「知っている」ことはどうでもいい。

だから、「能力」は3番目のわけがない。
「できる」は参加条件だ。

しかし、こう言うと、次の反論が出るだろう。
「能力」のない者が、「情熱」で「能力」を得る可能性があるじゃないか!

そうね。
それはあると思うよ。
でも、1周遅れだ。

今の時代、1周遅れは致命的だ。
相手がサボっていれば別だけど、能力差は開くばかり。
「情熱」で「能力」は得られるけど、その「能力」の活躍の場が
どこかは別の話だ。

そういえば、私の本格的なギターの復活は、ある人物のお陰だ。
彼は思ったそうだ。
「どうせオカモトは口ばかり。1年もやっていれば、アイツを追い越すことが可能だろうな・・・」
そして、アマゾンで「ギター入門セット」を買った。

まー、こんな冗談を本気で思う時代なのだ。
だって、資本主義がそれを販売しているのだから・・・。

でもね、世の中がどんなに便利になっても、
時間の問題は埋まらないし、基礎にフォーカスしている人間には
かなわないのだよ。
当たり前だよね・・・。

でも、こんなことがネタになるほどに、混乱している。
だから、私もずいぶん当たり前のことを言うことに紙面を費やして
しまった。

おそらく、ここがこれからも論点であり、焦点であり、商品であり、人生の結果だ。
今、未来はとてもわかりやすく姿を現してくれている。

以前、「砂漠の中から本を探す」で紹介した『真説・企業論』は、
こうした観点で読めばいいと思う。

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