■計画をからかう
ウォルマートの創業者サム・ウォルトンの奥さんが、 「メンフィスになんて引っ越したくない!!」と言わなかったら、 今のウォルマートはあるのだろうか?
この手の疑問はいくらでも浮かぶ。
レイモンド・ジョーンズという青年が、 「ビートルズのレコードはありますか?」とブライアン・エプスタイン(後のマネージャー)が経営する『ネムズ』(レコード店)を 訪れなければ、ビートルズはこの世に存在しなかったのか?
1914年に、フランツ・フェルディナントがサラエボにノコノコ 出掛けなかったら、第一次世界大戦は起こらなかったのか?
私は、過去の本にこんな2つの疑問を書いた。
ちなみに、サム・ウォルトンは奥さんの言うことを聞いた。
そして、2号店をアーカンソーの1号店の近くに出した。
これにより、彼は今で言うドミナント戦略の効率性に気付いた上に、競争回避のメリットにも気付いた。
大型店を小さな町に集中的に出すなんて、効率が悪い。
誰もがそう考える。もちろん、サム・ウォルトンもそう考えた。
だから、彼だってそんな計画は立ててもいなかった。
奥さんが反対しただけ。
それだけである
計画って何でしょう?
そういえば、ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインは、きっちりとした計画のもとに、ジェリー&ザ・ペイスメイカーズというバンドを売り出す。
彼らは、当初ビートルズが歌うはずの曲『How Do You Do It?』でデビューし、全英No.1ヒットを獲得。そして、デビューから3曲が1位という快挙を成し遂げる。
でも、今では彼らのことは一部の音楽好きしか知らない・・・。
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このことも本に書きました。
みんな計画が好きだ。
そして、線形計画を立てる。
世の中では、計画されていないことが大きく化けて、 計画されたことは失速していくというのに・・・・。
『カメラを止めるな』が大当たりし、『ジュラシック・パーク』の 新作は失速するのである。
しかし、多くの人は計画を求められ、夢を語らされている。
「ヒーローになるつもりなら、夢という言葉は決して使うな」(@黒川伊保子)
というのは少数意見で、「夢を日記に!」と言っている国会議員の方が圧倒的に目立っていて、若者たちは、 「5年間のキャリアを計画しましょう」と指導されたりしている。
そういう計画の全てがダメとは私も思わないが、 ほとんどはダメである。
国会議員の日記の夢は、たまたま状況が味方をしただけだ。
私たちは、自然の中で生きている。
自然には4つの特徴がある。
・画一的ではない
・従順ではない
・直線ではない
・フィードバックが大きい
こんな特徴を持つ自然の中で生きながら、線形計画を立てるのだ。
どう考えても、時間のムダでしかない。
しかし、成功は目立つ。
それも、あらかじめ計画されたことが実現した・・・というのは カッコいい。
そこで、物語が作られる。
サム・ウォルトンは、奥さんに怒られることなんてまったくなかったのだ。
そして、当初から、競争回避のドミナント戦略を意図したことになるのであった。メデタシ。メデタシ。
だから、私は国会議員の日記も、彼のことを書いた提灯小説(作:高杉良)も信用していない。
偉大なる自然に対して、
・画一的で
・従順で
・直線で
・フィードバックがない
前提で、計画を立てる。
これを、あり得ない行為と言わずに何と言おうか?
私たちは、偉大なる自然環境に生きている・・・・・。
そして、人も同じだ。
だから、人を
・画一的で
・従順で
・直線で
・フィードバックがない
前提で、組織を作ればうまくいく訳はない。自明である。
ところで、それならば何の計画もいらないのか?
もちろんそうではない。
登山に行くときは、地図を眺め、地形を頭に入れておくことは当然のこと。それがなければ、突然の事件に対処などできる訳はない。
だから、フランツ・フェルディナントは、どう考えたってアホなのである。
自然の中では、小心者が勝つ。
準備を怠らないからだ。
度胸のあるやつが活躍するときもあるが、そんなことはあまりない。
フランツ・フェルディナントのある種の鈍感さに、 神はほほ笑む訳がないのだ。
しかしである。
過去に本でも引用した小林秀雄の次の言葉は、 もっと見逃せないことだと思う。
人はさまざまな可能性を抱いてこの世に生まれてくる。
彼は科学者にもなれたろう、軍人にもなれたろう、小説家にもなれたろう、しかし、彼は彼以外のものにはなれなかった。 これは驚くべき事実である。
いずれにしても、サム・ウォルトンは成功し、 ビートルズはデビューし、やはり成功したはずだ。
そして、フランツ・フェルディナントはいずれ殺された。
これも一つの真実だと思う。
では、夢を日記に書いた国会議員を含め、サム・ウォルトンや ビートルズには、どうして神がほほ笑んだのだろうか?
この件については、過去に少し書いた。
彼らは、トレードオフに逆らわなかった。
必ず、何かを捨てながら何かを得ていった。
オムレツを食べるために、一生懸命タマゴを割ったのだ。
ただ、それだけ?
私は、かなり強く、そう思うよ。
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