2019年10月15日第743号

目 次
  1. TAROの独り言
  2. どうして、こんなに予言的?
    ・・・掟の門
  3. まーけ塾レポート
    ・・・【第三週】イイジマ薬局
  4. Q&A
    ・・・学歴について
  5. しょせん人の言葉  しかし、気になる言葉
    ・・・『鈴木清順』
  6. 砂漠の中から本を探す
    ・・・『少年の国』
  7. 構造で映画を見る。時々、いいかげんに映画を見る。
    ・・・『ダンスウイズミー』
  8. TAROの迷い言
1. TAROの独り言

(先週の続き)

恐る恐る電話をする。
おそらく、英語。
果たして、会話になるか?

ところが、相手は日本人。
一瞬安心したけれど、やっぱり言葉が通じない。
前提が分からないと、日本語だって全く通じないのだ。

そこで、また同じお願い。

私のすべきことを日本語で教えてください・・・・・。

(TAROの迷い言へ続く)

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2.どうして、こんなに予言的?

■ 掟の門

田舎町で百姓をして晩年を迎えた農夫が、一生の思い出にと一念発起して、かの有名な掟の門の中に入ってみたいと思って、財産を整理して出かけてきた。

門の前に立つと、門番がいる。
事情を話して門の中に入れてくれるように頼み込む。
すると門番は、「今は中に入れることはできないので帰れ」と言う。

一生の思い出にと田舎から出てきているのだから、帰れと言われてすんなり帰るわけにもいかない。
そこで門の前で一夜を明かし、 翌日また門番のところへ行き、「中に入れてくれ」と頼み込む。
しかし、またもや「今は入れることができないので帰れ」と言われる。

こんなことを繰り返しているうちに農夫は体力を消耗し、ほとんど死ぬ間際まできてしまう。
その様子をうかがっていた門番がやって来る。

農夫は最後の力を振り絞って、聞いてみる。
「この門の中に入ると、いったい何があるのか」

「この門の中に入ると、また次の門があるだけだ」

「ではずいぶん長い間この門の前で門の中に入ろうと待っているが、他に誰一人として門の中に入ろうとする者がやって来ないのは何故か」

「これはお前のためだけの門だからだ」

(カフカ『掟の門前』)

カフカの短編『掟の門前』(『カフカ短篇集』より)を
初めて読んだのは、高校生の頃だと思う。
確か、初カフカとなった『変身』の後に読んだと記憶している。

手塚治虫が『ザムザ復活』(『メタモルフォーゼ (手塚治虫漫画全集)』より)を書いたのは、私が中学3年生の時だが、
手塚治虫のアノ話が、カフカの『変身』の借用であることに
気付いたのは、ずいぶん後のことだったように思う。

ご多分に漏れず、私もカフカでえたいの知れない表現に出合い、
興奮した。
とにかく、何だかよく分からないのだけど、実に、ナニカいいのだ。
この旅は、安部公房へと続いていく。

今になるとはっきり了解できることだが、カフカも安部公房も、
田舎の少年に、実に鋭い予言をしてくれていたのだと思う。
もちろん、当時の高校生には、
そんなことは全く分からなかった・・・。

・・・いやいや、こうやって書いてみて、分かった。
当時の私は、分かっていた。よく分からないけれど、
ナニカを分かっていた。

当時は、まだ社会を知らない。
当然、その後の人生も分からない。

だから、「彼らの予言」が、予言だという理解はできていない。
でも、「人生って、そういうもの・・・・」みたいなことを、
それなりに理解してしまった瞬間は、カフカと安部公房にあるような気がする。

そして、私は心の奥底で、きっと思ったのだ。
「棒になりたくない・・・・・・・・」

高校生の私の心の奥底で起きた、そんな化学変化。
この一事だけでも、私は安部公房にお礼を言わねばならないような
気がしている。

さて、そんな個人的な話はどうでもいい。
ネタにしたいのは、『掟の門前』。

実に予言的なこの小話が、人生の構造そのものを描いている・・・
なんてことに高校生が気付くわけもなく、
のんきに、門の中の入れ子構造を頭の中にイメージしていた。
当時の私は、大学に進学する気もなく、
門の中に入ろうともしていない。
門は、人ごとで、訳の分からない入れ子構造で・・・・・・。

でも、農夫同様に、私もいつの間にか門に入りたくなっていた。
入れ子構造であることは、十分承知。
そんな訳で、私の前では、門番は何も言わない。

ただ、門の前でたたずんでいて、門を開けるタイミングを見計らう。
その時は、私次第だ。

門に入る行為を、大局的に見たらおそらくムダだ。
全てが徒労だ。

でも、そのムダと徒労がすてきなのだ。

さらに、門は私だけの門だから、自分のペースが実に有効。
どうせ門は無限にあるのだから、ゆっくり行こうじゃありませんか。

・・・・・とつぶやきながら、
いくつの門を通ってきたのかは定かではない。
時には自分の意志と関係なしに、無理やり引っ張り込まれたことも
多数(門番は、案外親切なのかも・・・?)。

・・・・・と勝手気ままに、カフカのこの小話の解釈をした人は、
世界中に大量にいることと思う。

ところで私は、いつ門に入ることを決めたのか?

きっと、母のおなかの中で決めたと思いたいのだが、
それはやっぱり無理やり出されただけのことなのだろう。
でも、農夫は門の前に立つだけで、すでにいくつもの門を通ってきて今があることに気付いていないようだが、私は気付いている。

・・・ってことはですよ。
私の場合は、あの瞬間に自分の意志が動いたんじゃないだろうか?
もちろん、そう思いたいだけだけど、カフカの小話を自由に
解釈できるように、自分史だって自由に解釈していいはずである。
そして、その瞬間の前にもたくさんの門があったと考えたって
自由だ。

そんな訳の分からないことを、フラフラと考える機会を与えてくれたカフカにも感謝をしつつ、私が彼から示唆されたことは一つ。

自由意志と門は、必ずセットである・・・という一事である。

実に当たり前のこのことを、陳腐な考えと思わないでいられるのも、カフカのおかげである。

 

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3. まーけ塾レポート

【第三週】イイジマ薬局

長野県上田市の有名薬局『イイジマ薬局』は、
門前薬局が乱立する中で、処方箋集中率が10%以下という
時代の流れに大きく逆らった薬局です。

これは『イイジマ薬局』一人の力ではなく、
そもそも上田市の薬剤師会が、効率の良い在庫を目指して門前薬局に走ることに異を唱えていることも大きいと思います。
棚卸しの効率は悪くなりますが、OTC医薬品や医療雑貨も手放さないというのが、薬剤師会の意志だったようです。

そして『イイジマ薬局』は、”かかりつけ薬局”を実践しているというわけです。

しかし、そんなことは20年以上前から
厚労省が提唱していることです。
それを、業界が門前薬局に走って利益ばかりを求めた成れの果てが、今の景色です。

今では、全国から薬局経営者が視察に来るようですが、
簡単にマネができるものではありません。
今まで効率だけを求めてきたのですから、
患者との関係性は限りなくゼロ。
大手ドラッグストアの席巻に、今頃慌てても遅いのです。

この状況は、多くの業界で同様です。
今頃騒いでも遅いのです。
間に合った方々は、さらに前へ。
片足でもひっかかっている方は、じっくり急げ(笑)です。

 

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4. Q&A

Q.

いつも楽しくメルマガを拝見しています。

早速ですが、「学歴」について質問です。
わが家には受験を控えている子どもがおりますが、
本人は進学せずに働きたいようです。
高学歴でなくとも立派な方がたくさんいるのは承知しておりますが、私としては、どんな仕事に就くにしてもある程度の学歴が必要だと
考えています。
岡本先生は、「学歴」は必要だと思いますか?
よろしくお願い致します。

A.

ご質問ありがとうございます。

「学歴」はいらないけど、教養は必要ですよね。
それと常識もです。
そして、常識の大部分は、親の守備範囲です。

あとは分からないですよ。
残念ながら、
人の運命の多くは出会いで決まってしまいますから・・・。
しかし、その出会いというのが謎なんですよね。
ある種の必然性と言いますか・・・。

ただ言えるのは、
ヤンキーは一生ヤンキーで終えるケースが多いように、若い時に、
ある種の人々と出会い、カテゴライズされていく現実を見れば、
就職にしても進学にしても人を求めて向かうべきなんでしょうね。
もちろん、人の情報は少ないですから、
ある程度はカテゴリーから判断するしかないですけど・・・。

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5. しょせん人の言葉  しかし、気になる言葉

ちゃんとしたものをつくってどうするんだ。
出鱈目なものがいいんだ。

(鈴木清順)

もっと、セミナーの時間をオーバーしてもいいってことかな?

追伸
先日の『戦略セミナー2020/フォローセミナー』ご参加の皆さま、
ありがとうございました。
時間通りに終える気になれば、ピッタシに終えられるでしょ。
それは一応、技としては持っているんですけど、こういう技は、
ちゃんとしてる分だけつまらないんですよ。

 

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6. 砂漠の中から本を探す

『少年の国』

少年の国
井浦秀夫(著)
双葉社


弁護士のくず』の井浦秀夫が
こういう作品を書いていたとは・・・。
1991年の作品。オウム真理教事件の前に書かれている。
しかし、オウムがどうのこうの・・・というのはどうでもいい。
(だいたい、そこはパターンだし・・・)
この漫画には宗教学的知見が随所にあって、
そこにカジュアルな心理学や仏教の話を挿入しつつ、
一つの結論に向かう。
誰もがどこかで到達する結論だが、
この漫画はそれを作品としてまとめている。
難しい本よりいいかも?侮れない・・・。


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7. 構造で映画を見る。時々、いいかげんに映画を見る。

ダンスウイズミー

『沖縄スパイ戦史』ミュージカルをどう斬るか?
それは、MGMミュージカルを仮想敵とした、
創造の戦いと言ってもいいかもしれない。
最近では、『ラ・ラ・ランド』がその役割を
十分に果たした。
日本映画では、和田誠が小泉今日子と作った『快盗ルビイ』に尽きるだろう。

残念ながら、矢口史靖はアイデアだけで終わった。
とてもソソるアイデアだっただけに惜しい・・・。

劇中で展開する小さな設定も、アイデア倒れが多かった。
おそらく、撮っている時に気付いていたと思われるんだけど・・・。どうして脚本を変える勇気がなかったんだろう?

ロード・ムービーとしての位置付けも中途半端。
新潟も札幌も平板だ。
最近のアニメが、街の描写に力を入れているのとは対照的。

初期の矢口作品と比べると、カメラは今風の進化を確実に
こなしているのだけど、脚本はつまらなくなってきていると思う。
もともと、アイデア一発の人。初期は、その一発アイデアをうまく
具体化できたと思う。
しかし、アイデアはアイデアでしかない。
ドラッカーが指摘するように、アイデアだけではビジネスは
うまくはいかない。映画だって、もちろん同じ。
具体化するのって大変だよな・・・・・・・。


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8. TAROの迷い言

(TAROの独り言のつづき)

長文の返事が来た。
訳の分からんことが大量に書いてあるけれど、
最後の脅し文句だけは分かった。

「あなたのは荷物の保管期限は切れているので、
1日700円の保管料が掛かっています」

がーん!どうしたらいいんだ・・・。

(次週に続く)

 

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