■リベンジという指向性
大坂なおみの優勝に感動して、テニスをはじめた・・という人が たくさんいるらしい。
テニススクール業界には朗報だが、こういう行動がよく分からない。
テニス業界は、バブルが続いている(らしい)。
最近は、だいぶ落ち着いてきたみたいだが、錦織圭のベスト8進出をきっかけにブームが続いていて、テニス人口は順調に増えているのだそうだ・・・・・。
んーーー、謎だ。
そんな謎の気分でいた私に、『大阪的』(井上章一)がある事実を 教えてくれた。
『101回目のプロポーズ』というテレビドラマのヒロイン(浅野温子)はチェロ奏者で、3年前に亡くなった恋人(ピアニスト)を忘れられないでいる。
そのヒロインに、主人公(武田鉄矢)が猛然とアタック。 彼女に気に入られようとピアノの練習を開始。
そして、彼女の元恋人がよく弾いたというショパンのエチュードを 披露。ヒロインは心を揺さぶられ、二人は結ばれる・・・・という お話らしい(ずいぶんはやったらしいが、私は知らない)。
このドラマが放映された1991年。ドラマを見た中年男の中に、 ピアノをはじめた人がいたらしい。『大阪的』では、ピアノ教室に「洪水のように中年男がおしよせた」とある。
もちろん、「みんなショパンのエチュードをやりたいって言って」、押し寄せたのだそうだ。
んーーー、分からない。
その1991年にピアノをはじめた中年男のどれくらいが、 今もピアノを続けているのだろうか?
錦織圭や大坂なおみでテニスをはじめた人たちは、 今日も元気に素振りをしているものだろうか?
ところで・・・・・。
わが家の子どもたちの中学・高校時代の部活も、 似たようなニオイがある。
・長女が卓球とオーケストラ
・次女が卓球とバンド
・長男は野球三昧
映画 『ピンポン』(松本大洋原作)、テレビドラマ『のだめカンタービレ』(二ノ宮知子)、アニメ『けいおん!』(かきふらい)、 アニメ『メジャー』(満田拓也)の影響は明らかだ。
でも、子どもは分かる。
まだあんまり世の中を知らないのだから、そんなものだろう。
私の子ども時代も、『巨人の星』で多くの男の子が野球をやっていたように記憶する。
『燃えよドラゴン』でヌンチャクがはやり、『日本沈没』や 『ノストラダムスの大予言』を恐れたものである。
そこで、「待てよ・・」と思う。
こんなことを書いている私は、テニスやピアノをはじめた人を さげすんでいる。「信じられなーーーい」と思っている。
しかし、自分はどうなのか?
私は、42歳の時に、デローザというイタリアの自転車を 買っている。
金額は、なんと120万円!!
その原点は、中学3年生の時に見た『サイクルスポーツ』の記事。
記事は、チネリやコルナゴ、デローザに乗る親子を特集したもので、私はそれがうらやましくて、うらやましくて仕方がなかった。
私がデローザを買った行動に、自分の意思はない。
もちろん、自分が決めたのだけど、どこまで自分が決めたかは 分からない。
あえて言えば、“反応”である。28年越しの“反応”だ。
ただし、その“反応”、誰もができるものではない。
チャリンコごときに、120万円も出す執念と経済的余裕がなくてはならない。
私が40代以降にやっていることは、そういうことだ。
ほとんどが、子ども時代のリベンジである。
おそらく、テニスやピアノをはじめた人たちも一緒。
過去に遠因があって、それが大坂なおみや武田鉄矢が トリガーになって発火。
そして、「なんだ、経済的な余裕があるじゃないかー」と 気付き、“反応”する。
皮肉なことに、若い頃にデローザを手に入れていれば、私はボロボロになるまで乗ったと思う。
しかし今、私のデローザは、わが家の玄関の飾り物と化している。
“Unfinished Business(未完結なわだかまり)”を解消した結果は、そんなものだ。
そして、私はそれでいいと思っている。
おそらく、ピアノおじさんも、テニス女も似たようなことに なっていることだろう。
私は、お客さまである便利屋に、便利屋カタログを作ることを 提案している。
そのカタログの1ページ目には、「初恋の人に、手紙を届ける」とか「昔の彼女を探し出して、連絡を取る」系のものを載せようとも 言っている。
そして、そのカタログの数ページは、青春時代の“Unfinished Business(未完結なわだかまり)”が並び、後半になってはじめて、お片付け系の一般お手伝いが並ぶという構想だ。
私たちが消費しているもの、そして、これから消費するものは、 煎じ詰めれば、そういうものだ。
“自己実現”などではなく、多くは“Unfinished Business(未完結なわだかまり)”。
しかし、それは、“自己実現”なんかより、ずっとすてきだと思う。
・・・・・・・
高校時代、小さな本棚を母から買ってもらった。
その時の喜び。そして、本を並べて、本棚の前にどれだけたたずんでいたことだろうか・・。
今、私は、天井まで届く特注の本棚(昨年、新調)に囲まれて仕事をしている。
自宅の屋根裏も書斎も全て本棚だ。
新調の本棚が全部埋まるまで、私は仕事を続ける。
でも、その後は分からない。
おそらく、私が仕事をしている・・・というのは、 そういうことなのだと思う。
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