有料メールマガジン『週刊 岡本吏郎』

【第21回】「神話はシャドウ」

(注:今回はちょっと難しいかも・・)

保坂正康さんが面白いことを言っている。
「私は・・・多くの(歴史の)証言者に会ってきて、そこに法則のようなものがあることに気づいたのである。それを私は“1対1対8の法則”と勝手に名付けている」

この保坂さんが言う“1対1対8の法則”の内容が面白い。

最初の「1」は、「ここまでが当時の私の体験です。これから先は、改めて戦後になって資料を読んだりして、他人の意見を聞いたりしてそのうちにできあがった私の考えです」という風に証言する誠実派。

次の「1」は、意図的に虚言を吐いたり、証言をぼかそうとする人。

最後の「8」は、その証言には必ず誇張、美化、隠蔽、そして操作という心理上の手が加わっているが、すべて虚偽とも言ええない普通の人たち。

・・なのだそうである。

人は、自らの体験を語るとき、辛いことは忘れ、うれしい話は大きくなる。基本的に、過去を美化し、自分を正当化する。

歴史の中には、こうした証言から作られているものも、あるのかもしれない(歴史の裏面史なんて、そういうところがあるだろう・・)。

そういえば、黒澤明の映画『羅生門』も、そんな人の愚かさをテーマにしていた。

こういうことを考えながら、自分のことを客観的に考えてみると、一つ一つを検証してみたくなる。
先日も、雑誌のインタビューを受けたが、自分は、最初の「1」でずーっと話をしていたのか疑問が残る。もしかしたら、「8」で話している場面があったかもしれない。本人は、そんなつもりはないけれど、わからない・・・・・。

そんのな前提の中で世の中の全ての「証言」は成り立っている。

経営者の成功物語なんて、苦しいときもあっただろうから、その典型だ。
それも、聞き手などにより事実の検証がされていない発言、つまり経営者自らが書いた本の内容は割り引く必要がある。

誠実な人が「これは君に初めて話すんだが・・」と言って話し始める証言の裏を保坂さんが取ってみると、まったくそんな事実がなく、本人がどこかで記憶を勝手に書き換えたとしか思えない例に出会う。それも、そうした「証言は少なくない」のだそうだ。

私たちの周りにあるものは2つ。

一つは真実。
もう一つは、神話。

人間には神話が必要だ。
ユングは、UFOという現代の神話を、人には必要なものだと言った。

成功物語という神話もやはり必要だ。それがなければ、私たちは寂しすぎる。やっぱり、いつでも希望は欲しい・・・。

しかし、神話と真実の見極めは重要だ。
だって、経営者の多くが失敗するのは、神話のせいなんだから・・・・・。

生きるには、神話が必要。でも、神話を神話と理解できないとうまくない。
ここが難しいところだ。

神話と共に生きていた上代同様に、今の私たちも神話の中で生きている。
だから、ノストラダムスも、百匹目の猿も、チャネリングも、成功物語も大好きなのだ。
こういう神話を理解できない奴の方が、ダサイ奴であり、頭の固い奴なのだった。

景気の失速や北朝鮮問題などの問題が世間にたくせいいあるから、なおさら神話は必要になる。

神話は私たちのシャドウなのだ。

私たちが今の私たちで生きるために、封印している自分。それがシャドウ。
そのシャドウの鏡が神話である。

だから、歴史の証言者は、証言の中にシャドウを投影する。
できなかった自分、やるべきだった自分、つまり主人公である自分を投影する。

抑圧している自分、封印している自分。そいつとの対話が生きるということなんだね。

神話の多い現代は、抑圧の社会なのだった・・。
神話には気をつけよう。

カテゴリー目次に戻る

『週刊 岡本吏郎』お申し込みはこちら

『週刊 岡本吏郎』  1,200円(税込1,320円)/月

メルマガ目次 バックナンバー