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みかん

慶応大学近くでタクシーをひろう。
「恵比寿まで」
運転手は言った。
「恵比寿までの行き方がわからないんですよー」

このシチュエーションは、普段は即タクシーを降りる。
でも、この日は、やっと出会えたタクシー。
私は不機嫌そうに言った。
「じゃー、道案内するから行って。まず、その交差点左ね・・・」

車が左折してから私は言った。
「運転手さん、普段、どこ走ってるの?」
「足立区の方なんですよー」

朝、お客を乗せて足立区の方から港区に。
そして、帰ろうとしてるんだけど、次々とお客さんにひろわれて帰れない。
今度こそ帰るぞ・・と思ったら、また私にひろわれてしまったそうだ。
「今日中に帰れるといいねー」
私は言った。

突然、運転手が、みかんを差し出す。
「道案内代です。どーぞ」
「あ、ありがとー」
それから、運転手のワクチン接種の顛末なんかを聞かされながら目的地に着いた。

タクシーを降りて、懐かしさを感じた。
学生時代、夜のバイトが終わるとタクシーチケットをもらって家に帰っていた。
当時のタクシーはガラが悪いというのが一般的印象。
比較的マシと思われていた個人タクシーをみんなが選んでいた(今は印象が真反対になった・・)。
若い小僧がタクシーに乗ると、タクシーの運転手は「学生さん?」と話しかけてきた。
一度は、車内に忘れ物をして、自宅に伺ってケーキをごちそうになったこともある。

『ナイト・オン・ザ・プラネット』や『バカヤロー!私、怒ってます』など、タクシーを舞台にした映画は多い。
『ナイト・オン・ザ・プラネット』が描いた“対称性”も、『バカヤロー!私、怒ってます』が描いたことも私の乗った車内でも起きていた。
だから、運転手と会話している間、映画的なものを感じていた。
そして、なにかを拾った・・気がする。
みかんは、そんなことの象徴だった。

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