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1『出版について思うこと』

『著者』(「週刊 岡本吏郎」2019-10-22[744号]より)

Aさんという著者について書こうと思います。

Aさんは、最近も「本当に、Aさん?」と疑ってしまうような、
どこにでもある自己啓発系の本を出版しました。

90年代、私はAさんの書く本でずいぶん勉強をさせていただきました。
日本の会計は専門ですからいいのですが、国際会計基準やDCFなどに疎かった私は、
Aさんの本をきっかけに、新しい知識を仕入れさせていただきました。

もちろん、他にも解説本はあるのですが、Aさんの書きっぷりには頭の良さを感じるのです。
一言で言えば「言葉の使い方がうまい」となるのですが、チョムスキーの言うように、
Aさんの使う「言葉の構造」というものが、その人そのものだと思いました。
そして、私は、陰からお慕い申し上げていたわけです。

しかし、20年くらい前のことだと思います。
Aさんが、理解に苦しむ本を出版します。
これが大ヒット。

まー、1冊くらいは愛嬌でいいでしょう。
私も人のことは言えませんから、3冊くらいまでは・・・・・・とは思います。

しかし、アマゾンで彼の本を発売順に並べてみると、大きな断層に驚きます。
彼は、3年ほど、実に品質の高い本を数冊書いた後、バカ本の量産に入るのです。

私は、彼を世に出した出版社の社長とある席でご一緒したことがあります。
彼の飲んでいる姿は実に鼻もちならないものでした。
当時、ヒット作を連発していたからなのだと思いますが、
どこか人を小バカにした態度に溢れているのです。

その頃からでしょうか、ビジネス書の売り上げは凋落していったように思います。
しかし、売り上げが凋落していても、打つ手は一緒。
そして、今も駄本が大量に生産され、ゴミと化しています。
その一翼を、Aさんが担っているなんて、本当に悲しい話です。

ちなみに、Aさんの言葉の使い方もずいぶん変わってしまったと感じています。
彼が話をしているのを音声で聞いたことがあるのですが、典型的な頭の悪い人の話し方でした。
くどい説明が何回も繰り返される。次に話すことが予測できてしまう・・・。
もう、聞いていて苦痛でしかありませんでした。
おそらく、今の本の品質も、そういう感じなのだと思います。

Aさんは、とても有名な方です。
私ごときが、足元にも及ばぬ方だと思います。

でも、アレはダメです。
あんなのが威張っている。あんなのに対して、みんなが頭を下げている。
あんなのが言っていることを、みんながもっともらしく聞いている・・・・・・。
ざわざわする景色です。

ところで、Aさんの新しい本のタイトルを知った時、私は瞬間的に思ったことがあります。

あーーー、じっとしていられないんだ。

そして、ジョン・K・ガルブレイスが過去に喝破した一言を思い出します。
「民主主義は、何かしていないといけない」(記憶なので、正確ではないです)

今の自民党政権を見れば、それが分かります。
半年前に、安倍首相が、北朝鮮と拉致問題を話し合うと宣言しましたが、
そのタイミングから見て、ただやることを見つけて公約にしただけに感じます。

年金問題という、解決すべき大問題には何の手も付けず、いつも何かをどこかで探している。
そして、良いものを見つけると、「それ乗った!」という感じです。
アベノミクスと言われている経済政策を言い放った時、私は思いました。
「じっとしてろよ!」

残念ながら、民主主義という仕組みの限界がここにある。
それをごちゃごちゃ言っても仕方がありませんから、これは他山の石にするしかありません。
だって、中小企業の多くの経営者も、アベちゃん同様に、大事なことには目もくれず、
どこかに新しい解決策やうまい方法がないかを探すのに一生懸命なのですから・・・。

そして、Aさんです。
彼には、もう本に書く内容はありません(断言)。
しかし、本を書くという目的が先にある。
アベちゃんが「北朝鮮に行かねばならぬ・・・」と言っているように、書かねばならぬのです。
内容はない。あるわけない。
だって、もう書き切っちゃったんですから・・・・・。
もっとやるべきことがあるはずなのに、残念な話です。

ちなみに、ちょっとだけ私のことを書きます。
私には、書く内容があります。しかも大量に。
本当ならば、最後に書いた3冊の本を基盤にして、
本来書くべきことを書きたいという気持ちもあります。

しかし、それを書く能力がありません。
また、それを読む読者もおそらく少数です。
ですから、私はもはや本を書くことはないと思います。

もしその時があるとしたら、素晴らしい編集者との出会いです。
でも、その確率は非常に少ないと思っています。