『年末年始のごあいさつ』 2006 - 2007

年末のご挨拶(2006年末)

  • 「人間は何を知ることができないか?」
    「人間は何をなすべきでないか?」
    「人間は何を望むことが許されないか?」

    カントが自らの哲学の主要問題とした3つの問い。
    それを否定形にして問い直してみせたのは吉永良正さんでした。

    「持てる力を、あえて使わない」
    「できるけれど、あえてやらない」

    私は、プロとはそういうものだと思っています。

    そして、そういうことが問われた一年が2006年でした。

    一見つまらないように見える平凡な日常。
    しかし、それが、大きなカーブだ・・と昨年の挨拶で言わせていただきましたが、
    どうも未来は、第四コーナーにとんでもなく大きなパラダイム転換をしかけている
    ようです。

    私たちは、その第四コーナーの姿の一部を今年見ることになりました。
    それは、足し算しか知らない子供が引き算を覚える世界の入り口でした。

    足し算の価値が落ち、引き算が価値を持つ。
    そして、大きな物語が価値を崩落させ、
    「自分」という言葉の真の意味が問われる時代・・・。

    「私」のことを「自分」と表現することにした先人。
    「自らの分」とは、言い替えれば、
    「みんなの中での私の役割」というようなことでしょうか。
    この深遠な意味。
    そこには、私たちが「なすべきではない」もののヒントが溢れています。
    要は、「やること」を考えるのではなく、「なすべきではないこと」を考える。
    2006年は、あらためて、この基本中の基本を確認してくれました。

    さて、この確認さえできれば、後はこっちのものです。
    自分でやらなければならないことは、そんなに多くはありません。
    多くは「なすべきではない」こと。
    そして、手元には少数の「やるべき」ことが残ります。

    そして、それこそが私たちの宝物です。

    みなさま、本年も大変お世話になりました。
    個人的なことになりますが、今年は仕事ばかりではなく、自分の原点を
    たくさん確認できた年でもありました(その分、ずいぶん、遊びました)。
    そういった一年の経験は、これからも続く将来の「自らの分」のための大事な足跡だと思います。
    そして、また次がはじまる。
    「一年」というものを発見した先人に、お礼を言いながら、
    次の準備をはじめるとしましょう。
    来年もよろしくお願いします。

    2006年12月28日

    岡本吏郎

年始のご挨拶(2007年1月1日)

  • 明けましておめでとうございます。

    小学校入学、大学受験、就職、結婚、子育て・・・・・・・。
    それらは初めての経験でした。
    私たちはわかった風にしていますが、常に新しい経験を積み重ねている存在です。
    どれも未体験。その未体験を一つ一つ経験してきました。
    どれも経験するまではどういうことかもわからずに、
    ただ、前に体験した人を遠巻きに見ながら、
    「なんとなく」知識を得て、その初めての経験をこなしてきました。

    さて、私たちに残された初体験は何でしょう?
    まだまだ、たくさんの初体験が残っています。
    ただ、悲しいことには、その初体験の中には、老いのように準備や覚悟を
    早めにしておくべきものもあります。

    そういったものにも目をつぶらずに、私たちは経験の地層を積み上げていきます。
    いつも初心者。それが私たちの真の姿です。

    だから、いつも起こる事象や成果に対して謙虚でいたいと心から思います。
    「わかっている」なんて言葉ほど無力なものはありません。
    「わからない」という言葉こそ力強い言葉なのです。

    わからないことを、
    多くの初体験を、
    今年も一年味わいきりましょう。

    また、素晴らしい一年がはじまります。

    2007年1月1日

    岡本吏郎